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【レースな世界紀行2004】その1の2 [レースな世界紀行 2004]

「つづきを読みたい」という声(少数ですが)に押され、調子に乗ってつづきをアップします。「その13」まであります。最後までつづくかどうか。

その1の2
トヨタF1新車発表会
ドイツ・デュッセルドルフ〜ケルン

「見せたい村がある」というので、取材後、アンダーソンさんの案内に従って近くの村でランチをとった。「13世紀からそのまま」という城郭都市で、石と木でできた瀟洒な建物が並ぶ。ヨーロッパの村や町や都会に来るといつも思うのだけれど、通りに電柱のない景色はそれだけで価値がある(と日本の無粋な街並みを思い浮かべつつ、そう思う)。ソーセージとマッシュポテトを食し、地ビール(酵母を濾過しないタイプだった)をのどに流し込んだ。

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ナイフとフォークを動かしながら、「もし、あなたがトヨタと関係なかったとしたら、どんな市販車がお気に入りですか」と少々いじわるな質問をしたのだが、「それでもやっぱりトヨタのLS430を選ぶね。快適なのが一番」と答えた。
「元ラリードライバーだからスポーティなクルマが好みなのかと思っていました」
 と感想を述べると、
「そんなことはないよ。ジャガーのクーペも好きだ。スタイルがいい。乗るとがっかりするのが難点だが」
との返答。

TMGに戻ってリハーサルの見学。チームの首脳陣にオリビエ・パニスとクリスチアーノ・ダ・マッタが加わって、組み上がったばかりのステージをぞろぞろと歩いている。パニスはシックな革ジャン姿、ダ・マッタはダボダボのジーンズを履いたルーズな格好だ。

発表会本番でダ・マッタは、「今年の目標は?」という司会者からの質問に対し、「チームが成し遂げた進化がトップチームとのギャップを縮め、勝てるチームに成長するための大きなステップになることを信じている」と優等生的な発言をしたのだが、リハーサルでは「毎戦ポールポジション、毎戦優勝」と答えて、場内から小さな笑いを誘っていた。こっちが本音だろう。

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さて、夜はケルシュである。シャンパーニュ地方で作った発泡性ワインだけがシャンパンと名乗ることを許されているように、ケルンで醸造したビールにのみ、ケルシュと名乗ることが許されている。といって、お高くとまった飲み物では全然なくて、飲みやすい。何も知らされずに飲んだら下面発酵の代表選手ピルスナーと間違えそうだが、実は上面発酵である。これはケルシュなのだ、と意識して飲めば、ピルスナーとは喉ごしも異なるし、香りもまた別だ。

実のところ、ケルシュが飲めるから、ケルンが好き。アルト・ビールが飲めるからデュッセルドルフも好き。どこに行ってもうまいビールが飲めるから、ドイツが大好きだ。

ケルシュを飲んだのは金太郎というジャパニーズ・レストランだ。大聖堂から西へおよそ1km、ルネッサンス・ホテルの近くにある。金太郎はTMGに務める日本人スタッフの御用達になっている縁で、おじゃました次第。トヨタF1のポスターやら、ドライバーのサイン入りミニチュアモデルやらが壁に貼り付けてあって、どれだけTMGのスタッフに贔屓にされているかを窺うことができる。

カウンターの端ですしを握っているAさんという板さんもまた人物で、忙しく手を動かしながらちゃっかり客の会話を聞いていて、絶妙な合いの手を入れる。元来レース好きだったのか、来店する客の影響でレース好きになったのかは未確認だが、無類のレース好きであることは確かだ。ニュルブルクリンクで24時間レースが行われた際は、関係者のひとりがおにぎりの出前をAさんに注文した。注文するほうもするほうだが、受けるほうも受けるほうだ。Aさんは深夜のアウトバーンをカッ飛ばし、100km離れたニュルブルクリンクに無事おにぎりを届けたそうである。ものすごく、「人物」である。

ケルンにいることを忘れさせてくれる料理の味による影響が大なのだと思うけれど、ケルシュと日本食がこれまた良く合う。金太郎で味わったのと同じように、日本でケルシュと日本食を組み合わせることができないのがいかにも残念。ま、ケルンならではの楽しみ、としておこう。

デュッセルドルフからケルンに宿泊地を移した翌日は、ホテルで1日の大半を過ごした。夕方になってのそのそと行動を開始。近所のキオスクでポテトチップを買い、冷蔵庫から瓶入りケルシュを取り出して腹ごなし。夜は再び金太郎でケルシュ(飲んでばかり)。

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しかし、ホテルというものは、どうしていつも乾燥しているのだろう。乾燥しきった部屋で喉を痛め、これがもとで体調を崩すといった経験が以前に何度もある。何も僕だけに限った経験ではないようで、ホテルでの使用を前提にした携帯型の加湿器もあるようだ。が、あいにく持ち合わせていない。

といって、手をこまねいて乾燥に耐えているわけでもない。バスタブに湯を張ることもやってみたが、どうも効果が薄いようだ。ベッドから距離が離れていることに原因があるように思う。濡れたタオルをハンガーに掛け、部屋の一隅に吊すこともやった。これはなかなかいい。

なかなかいいが、作業が完了するまでに時間がかかるのが難だ。とくに泥酔して一刻も早くふとんにもぐり込みたいときなど、もどかしくて仕方がない。こういう場合どうするかというと、床に水を撒くのである。洗面所に置いてあるコップに水を満たし、ベッドの周囲に5〜6杯も撒く。これで完了。夜中にトイレに起きたときに濡れたカーペットを踏みつけて不快な思いをすることもあるが、湿度環境面は快適だ。朝にはすっかり乾いていて、部屋の乾燥具合を思い知ることになる。良識ある大人がすることではないが……。

トヨタのF1新車発表会はつつがなく終了。ダ・マッタはリハーサルでの威勢のいいコメントをぐっと呑み込んで、台本通りの言葉を残し、ステージの奥に消えた。帰国便に乗るのは日曜日の夕方で、フライト時刻までたっぷり時間があるというのに、手持ちぶさたであった。ドイツの日曜日ほど買い物に向かない日はない。店という店はシャッターを閉め、シャッターのない店は出入り口のドアを厳重にロックし、「今日は絶対に商売しません」と宣言するかのように強固な意志を主張している。それを知ってか知らずか(おそらく先刻重々承知なのでしょう)、通りにもまったく人気がない。

これはTMGに務める日本人スタッフから聞いた話なのだが、日曜日に庭の芝刈りをしたら、近所の住人から「そんなこと日曜日にするんじゃない」とたしなめられたそうである。「日曜日にしないでいつするんだ」と思ったそうだが、怒られるんじゃあ仕方がない。同様にして、日曜日の洗濯も禁物なのだそう。彼の国ではとにかく、日曜日は何もしてはならないような雰囲気が漂っている。

仕方なく(と言ったら失礼ですね)、「難波(なにわ)」というラーメン屋に寄った。だがここでもラーメンは食べない。理由は至極簡単。アルト・ビールを腹に収めるため。ドイツ滞在をアルト・ビールで締めくくれるのだから、ショッピングを堪能できずとも幸いとすべきである。あ、空港でもしこたまピルスナーを飲んだっけ。
(つづく)

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