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トヨタ2012年ル・マン24時間参戦までの開発を(簡単に)振り返る [モータースポーツ]

2006年からハードウェアをフォローしている身としては、感慨深いアナウンスでした。いよいよですね。ル・マン24時間レースでレーシングハイブリッドの効率の高さを見せつける(見せつけることができれば、トップでゴールするはず)のが目標でしょうが、開発の第一歩は、2006年の十勝24時間レースに出場した「レクサスGS450hスーパー耐久レース仕様」でした。

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2006年は、高速急減速時のエネルギー回生技術を磨くのが目的。開発期間が短かったこともあり、ニッケル水素バッテリーを搭載したオリジナルのシステムに、キャパシタを追加したシンプルな構成でした。エネルギーを水に例えれば、蛇口から流れ出てくる水をコップで受け止めるのがニッケル水素バッテリー。市販車が走る領域ならこれで十分。でも、レースでは水が滝のように流れるので、たらいが必要。そのたらいがキャパシタというわけです。

下の写真は取り外した状態のニッケル水素バッテリー。

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当時の表現で言うビデオデッキ大のキャパシタは助手席に搭載。オリジナルのニッケル水素バッテリーは過熱によって出力が低下する症状が見られたので、断熱材で囲んだドライアイス冷却装置で冷やしました。下の写真手前に見えるのが、ドライアイスを入れる箱。

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翌2007年はSUPER GT GT500クラス規定のスープラをベースにハイブリッド化し、十勝24時間レースに参戦しました。本格的なレーシングハイブリッドと言っていい内容です。

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後輪に加えて前輪でも回生を行うため、10kWのモーター/ジェネレーター(MGU)を前輪左右に配置。技術的には駆動力の各輪制御を行うことも可能でしたが、実戦での使用は見送りました。

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150kWの後輪用MGUは、トランスアクスル前端に取り付けるレイアウト。3つのMGUで回収したエネルギーは、水冷システムを組み込んだ、助手席横のキャパシタに蓄える仕組み。

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2012年のFIA世界耐久選手権(WEC)に参戦する(ル・マン24時間はシリーズの一戦)LMP1クラスの車両は、トヨタF1参戦活動の前線基地だった、Toyota Motorsport GmbH(TMG/ドイツ・ケルン)が設計、開発、製造を行います。未投入に終わりましたが、2009年のF1シーズンに向けて行ったKERSの開発で培った技術、その延長線上にあるニュル北コースのラップレコード記録EVの開発で用いた技術がふんだんに盛り込まれるものと予想できます。

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(素材:TMG)

ディーゼル・ハイブリッドではなくガソリン・ハイブリッドとしたのは、ガソリン・ハイブリッドでディーゼルを打ち負かす(つまり、ディーゼルとガソリンの熱効率の差を減速時のエネルギー回生で逆転する)のが目的だからでしょう。ガソリンエンジンのフォーマットも気になるところですが、はやりの「過給ダウンサイジング」ではなく「自然吸気」ではないかと、勝手に予想しています。

レースのような連続高負荷の環境で、はたして過給エンジンに効率面のアドバンテージがあるのか。効率面で有利な方をTMGは選択してくると思うのですが、まずはそこが気になりますね。いずれにしても、大いに楽しみです。

2012年のLMP1に至る開発の過程は、『Motor Fan illustrated特別編集:トヨタ・プリウスのテクノロジー』にまとめてありますので、興味ある方はご笑覧ください。




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日産のFF車用ハイブリッドシステム [クルマ]

FR用のハイブリッドシステムが出た時点でFF用の出現が公言されていたので、「あ、出たのね」くらいの軽い気持ちでFF車用(つまり横置き)ハイブリッドシステムを眺めました。

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7速ステップATと組み合わせたFR用ハイブリッドシステムに対し、FF用は新開発のCVTとの組み合わせ。CVTであることは織り込み済みで、驚きはありませんでした。が、よく見るとベルトではなくチェーン。

日産は2.0〜3.5L車をカバーする中高トルク対応のCVTを新開発すると同時に統合しましたが、2.0〜2.5L車向け(中トルク容量)はベルト、2.5〜3.5L車向け(あるいは、大トルク容量)はチェーンとし、作り分けています。2.0〜3.5L車向けのレシオカバレッジは7.0ですが、大容量のチェーンCVTは7以下、6以上だそう。

社内のベルト派とチェーン派でバチバチの議論があったそうですが、駆動するだけでなく、回生する際の伝達効率も含めてどっちが優れているのかを比較した結果、チェーンに落ち着いたそう。というわけで、日産初のチェーン式CVT。ハイブリッドだけでなく、コンベンショナルなエンジンとの組み合わせにも採用されます。

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エンジンとモーターの間に乾式クラッチを置いて両者を完全に切り離せる構造にしているのはFR用システムと同様。FR用はステップATの締結要素を転用してモーター発進時の制御をしていますが、FF用はCVTが内蔵する前後進切り換え用プラネタリーギヤのクラッチを使用。というわけで、1モーター2クラッチ式であることは同じ。

FR用ハイブリッドシステムを積むフーガ・ハイブリッドのモーター出力は50kWですが、FF用のモーターは15〜25kWで検討中とのこと。フーガの場合はエンジンをなるべく使わず、極力モーターで走る制御でしたが、FF用は減速時のエネルギー回生に特化したシステム。ゆえに、モーターは小型でオーケー。

燃費率の悪い領域はモーターを利用することに変わりありませんが、フーガのエンジンは(あえて)そこまで効率を高めているわけではないので、モーターの出番が多い。一方、新開発のFF用はエンジン自体の効率を高めているので、モーターの出番が少ないというわけです。

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よくみると、運転席側にスーパーチャージャー(イートン製)が付いていました。マイクラが積むHR12DDR型1.2L・直3スーパーチャージャーと違ってポート噴射ですが、効率追求型の4気筒ミラーサイクルエンジンです。

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インタークーラーは水冷式。ずいぶん高い位置に付いていますが、展示物は現状3.5Lクラスを積んだSUVへの搭載を意図した仕様のためで、セダンへの搭載も計画中だそう。その場合、インタークーラーのレイアウトは異なるはず。

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吸排気可変バルブタイミング機構を装備。アクチュエーターが3個付いていますが、追加の1個は始動時のデコンプ(圧縮行程を楽にするために、シリンダー圧力を低くする)用。

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FFのハイブリッド車、2012年には乗れそう。仕上がりが楽しみです。

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コンティネンタルのピエゾ・コモンレール [クルマ]

コンティネンタル・オートモーティブの最新技術を体感できる「TechRide 2011」に参加してきました。最新技術のひとつがピエゾインジェクターを採用したコモンレール・システム。CO2排出量削減につながる切り札のひとつです。

試乗車は、VWポロに積んでいる1.6L・直4ディーゼルエンジンの燃料供給系を、コンティネンタル・オートモーティブのPCR(ピエゾ・コモン・レール)に置き換えた仕様。

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最大噴射圧は2200bar。1サイクルあたりの噴射回数は7回です。高い圧力で燃料を微細化できることに加え、反応の早いピエゾ素子によって噴射タイミングや噴射量を細かく制御できるので、燃焼効率は良くなるし、燃焼に起因するノイズは小さくなるというわけです。

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メルセデス・ベンツの3L・V6ディーゼルに乗ったばかりだし、先月はFPT(搭載車両はランチア・デルタ)の1.6L・直4ディーゼルに触れているので、ディーゼルの感覚はまだ十分体に残っていました。車内はもとより、車外で聞くディーゼル音は控え目。「カリカリ」音の角がとれて「ナリナリ」いってます。

5速MTとの組み合わせでしたが、感激したのは吹き上がりの軽さ。ダウンシフト時の回転合わせがガソリンNA+フライホイール軽めなクルマのようにスパスパと決まって気持ちがいい。音も軽く、フィーリング、音ともに重た〜い感じのFPT製ディーゼルとは対照的でした。ノーマルのVW製1.6L・直4ディーゼルと比較できていないので、なんとも言えませんが、高圧+多段噴射は乗り味をスポーティにするポテンシャルを秘めていると感じた次第。

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低回転域からリニアに太いトルクが出るし、ターボラグはどこ? といった感じ。最新ディーゼルの良さを再認識した一日でした。

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メルセデス・ベンツE350ブルーテック・アバンギャルド [クルマ]

東京〜鈴鹿サーキット往復の相棒はメルセデス・ベンツE350ブルーテック・アバンギャルドでした。簡単に言うと、ディーゼルエンジンを積んだスポーティな仕様です。

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実は5年前も先代Eクラス・ディーゼルで東京〜鈴鹿間を往復していました。

過去エントリーはこちら↓
http://serakota.blog.so-net.ne.jp/2006-10-10

5年前のエントリーを読み返してみて、思わず苦笑してしまいました。渋滞のはまり具合が同じ。当時は「リッターあたり約12kmの燃費に感心」と書いていますが、とんでもない。今回は881km走って13.7km/L(平均車速54km/h)。往路は400km走って15.3km/h(平均車速84km/h)でした。高速巡航時は16km/L以上の数字を確認しています。

100km/h走行時のエンジン回転数はわずか1500rpm。そこまで回っていれば十分。アクセルペダルに置いた右足にほんの少し力を加えるだけで、ひょいっと追い越しは完了します。長距離クルーズに向いたしつけ。ゆえに、疲れ知らず。回転計を見ると、4000rpm以上回すことは意味のないことがわかります。

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「320」と「350」の違いはありますが、先代Eクラスが積むディーゼルエンジンと、現行Eクラスが積むディーゼルエンジンは同じで、OM642型。バンク角72度の3L・V6DOHC24バルブターボです。ボッシュが第3世代と呼ぶ、最大噴射圧1600barのピエゾインジェクターを採用。155kW/3400rpmの最高出力と540Nm/2400rpmの最大トルクは同じ。7速ATとの組み合わせも変更なし。制御のブラッシュアップで燃費/フィーリングともに良くなったのでしょうか。

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ディーゼルを展開するには、国内のサービス拠点をディーゼルに対応させなければいけないわけで、それなりの投資は必須。メルセデス・ベンツは国内のディーゼルに普及に関し、本腰を入れているということです。まぁ、良心と言っていいですね。願わくば、Cクラスにも欲しい。それほどに魅力的なパワーユニットです。

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「はがすな」FIAステッカー [F1]

FIAに割り当てられたピットにアクセスするドアに貼られていたものです。「はがすな」のステッカーが見えますが、心ない人いるので防御のために貼っているのでしょうか。それともジョークなのか。判断がつきかねます。

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そのとなりに貼ってあったステッカー。「みんな一緒だ」のメッセージの下に「ピートとアラン以外は」と書き加えてありますが、こちらはジョークでしょう。

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ピレリのごみ箱 [F1]

日本GP開催中の鈴鹿サーキットのパドックで、ピレリのホスピタリティを訪れました。目に付いたのがこれ。ブリヂストン時代も公開していましたが、風洞試験に使う50%スケールのタイヤです。荷重がかかった際のたわみかたなど、リアルな状況を忠実に再現するよう精巧に作られています。

ついつい、これくらいなら部屋にも飾れるな、という視点で眺めてしまいます。

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もっと感銘を受けたのがこれ。ゴミ箱ですが、ふたの部分がタイヤのサイドウォールを模した形状になっています。センスいいですね。これも部屋使いできそう、という視点で見てしまう……。

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3日間晴天に恵まれそうなF1日本GP [F1]

振り返ってみれば2010年は大雨で土曜日の予選が中止になり、日曜日の午前中に予選を行って午後に決勝を実施するという慌ただしいスケジュールでした。2009年は金曜日が雨に見舞われました。どうやら2011年は3日間とも晴天に恵まれそう。

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素晴らしい。3年ぶりの鈴鹿開催だった2009年の予選は3度の赤旗が出る波乱で、決勝でも大クラッシュがありました。現行パッケージと鈴鹿の組み合わせに、ドライバーもチームも慣れてきたのでしょうか、アクシデントは減る傾向。タイヤのキャラクターの違いもあるような気がします。

しかし、小林可夢偉選手、魅せますねぇ。下の写真は、可夢偉選手の7番手スタートは日本のファンにとってはいいことだ、とコメントする、土曜日20時頃のミハエル・シューマッハ選手。

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小林可夢偉選手のカコミとタイヤチェック [F1]

金曜日のフリー走行終了後、16時45分頃の風景です。ザウバーのピット裏。人ごみの中心にいるのが小林可夢偉選手で、いわゆるカコミ取材の最中です。母国GPならではの人の数。注目度を物語っています。

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その手前では、ピレリのスタッフがタイヤ(イエローロゴのオプション=ソフト)の使用状況をチェック中。「エッジの摩耗がさぁ……」とやりとりしながら、当該箇所を観察しています。フロントタイヤのイン側もアウト側も、気になる箇所があった模様。

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ザウバーの新フロントウィング [F1]

木曜日の夕方にピットレーンを半分ほど徘徊。偶然、ザウバーが持ち込んだフロントウィングのアップデート仕様を目にしました。上が旧バージョン、下が新バージョンです。

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外側から説明すると、翼端板の構成が変わると同時にカスケードウィングの支持が最も外側の板になって、翼面積が増えています。
3エレメントであることに変わりはありませんが、メインプレーンはやや小振りになった一方、2枚のフラップは大柄になっています。
メインプレーンのセンター部分は旧バージョンでもわずかに湾曲していましたが、新バージョンは湾曲の度合いが強くなったように見えます。

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新バージョンの方がパワフルに見えますね。金曜日のフリー走行で両者を比較することになると思いますが、うまく決勝で使えるといいですね。

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あなどれませんゾ、インフィニティFXセバスチャン・ベッテル・バージョン [クルマ]

フランクフルト・モーターショーのインフィニティ・ブースでFXセバスチャン・ベッテル・バージョン発表の場に立ち会ったことは先日お伝えしました。

過去エントリーはこちら↓
http://serakota.blog.so-net.ne.jp/2011-09-20

実のところ半信半疑ではあったのですが、単なるショーカーの域にとどまらず、アウトバーンの速度無制限区間を快適に走るための開発に本気に取り組んだフシがうかがえたので、日産自動車に取材を申し込んでみました。で、取材を済ませてきたのですが、本気でした。

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詳細は『Motor Fan illustrated』の2号か3号先の号に掲載予定なので、それまでお待ちいただきたいのですが、セバスチャン・ベッテルの本気かつぶれない姿勢が開発陣のやる気に火を点けたようです。「いい」「悪い」の判断をする際の基準が明確で、合理的だし、決めたら一歩も引かない。きっとチームでも同じ態度で臨んでおり、「セバスチャンのためなら」と一肌脱ぐスタッフがたくさんいて、いい結果につながっているんでしょうね。

ベッテルが本物を求めたので、前後パンバーやサイドシル、リヤスポイラーはコスメティック(見た目優先で機能はそこそこ。あるいは機能性はあまり考えていない)ではなく、リアルに性能部品です。

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(写真:Infiniti)

超高速域を快適に(ということは安全に)ドライブするためには、何か必要なものが出てくる場合もありますが、不要なものもある。ベッテルは内装に関して必要なことに加えて「不要」なものも指摘したのですね。説明されれば、「なるほど!」なのですが、恥ずかしながら、写真をいちべつした際には気づきませんでした(種明かしは誌面で行います。ご容赦を)。

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(写真:Infiniti)

事前に話を聞いていればもっとじっくり見てきたのになぁ、と残念至極。でも、興味は倍増。開発裏話を聞いて、チャンピオンの器というものを再認識しました。


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