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【レースな世界紀行2004】その5 [レースな世界紀行 2004]

8年前に書いた日記なので、「どうして?」と質問されても答えられませんが、レースの話ではありません。お許しを。当時の写真を探しましたが、撮影禁止だったのか、残っていませんでした。これも、お許しを。

それにしても、8年前のあの技術、いまどうなっているのかが気になります。

その5
日産耐久信頼性実験見学
日本・栃木

まったくレースとは関係ない旅だし、「世界紀行」と銘打っておきながらバリバリの国内なので、ダブルで禁を犯しているのだが、“オーバルコース”に免じてお許しいただきたい。いやしかし、オートレース場だの競馬場だのいろいろ連想のしようがあるだろうに、左回りの周回コースを見て即座にオーバルコースを連想するところなんざ、レースな思考に冒されすぎである。

場所は栃木県の河内郡である。上三川町と書いて「かみのかわまち」と読む。そこに、日産自動車の栃木工場があり、プルービンググランド、平たく言えば、評価路だの試験路だのと解釈することのできる施設がある。

なぜこんなところを訪れたのかといえば、日産自動車からお誘いがあったからだ。「自動車会社が研究・開発の現場でいったいどんなことをしているのか、エンドユーザーに情報を伝達する立場にあるジャーナリストにもっと良く知ってもらいたい」という親切心が発端になっている。呼び集められたのは日産・広報部が言うところの「若手ジャーナリスト」だが、何歳から何歳までが若手かという定義はかなり曖昧である。ま、それはいいとして、「滅多に見られないところが見られる」というだけで、片道120kmの行程もなんのそのだ。

テーマは「耐久信頼性実験見学・体験会」であった。いわゆる車体の耐久性というやつで、自動車という機械は使っているうちに傷んでくる。傷んでくるが、使って1カ月、1000kmも走らないうちにサスペンションが折れて走行不能に陥っては困るし、ボディにガタが来ても困る。

というわけで、耐久信頼性試験の出番だ。栃木プルービンググランドには、クルマにとって過酷な環境が整っている。日産自動車はクルマが市場に出る前にここで充分な試験をし、耐久信頼性を確かめている。林道を模したデコボコ路があれば、ザラザラした路面もある。日産のクルマは日本だけを走るわけではなくて、ヨーロッパや中国や中近東やオセアニアや南北アメリカをも走り回っている。わざわざ現地で実走行テストをしなくても済むように、世界各地の路面をここで再現しているのだ。ベルジアンロードと呼ばれる石畳の道もある。

僕らはクルマを買って、デコボコやザラザラや石畳ばかりを走るわけではなくて、スベスベした路面を走ることのほうが多いけれども、過酷な路面で耐久信頼性の確認ができていれば、スベスベでも安心して走れる。だから、ここには意図的にデコボコやザラザラが施してある。

まことにエンドユーザーを思いやった配慮だか、デコボコやザラザラの上を一日中走り回っているテストドライバーはたまったものではない。実際にテストコースを試乗させてもらったが、1周や2周なら「わー、面白い」で済むかもしれないが、100周や200周となるとちょっとツラい。1万周や2万周となると、続けられる自信はなくなってくる。

だが、そうやって開発中のクルマをテストしないと、「クルマの耐久信頼性」という大切な部分を確かめることはできない。というわけで、日産のエンジニアは知恵を絞り、自動運転装置を開発した。効率の向上と労働環境の改善のためである。

自動運転による耐久信頼性試験は、1周約400mのオーバルコースで行われている。おそらく、テストコースの端のほうだと思う。40年前の自動車運転教習所はかくありなん、というとてものんびりした空気が流れる一角に、掘っ建て小屋様の制御室があり、その向こうにデコボコやザラザラの路面が広がっている。そしてそこをテスト車両が無人で(!)走っている。

時速は30km/h。聞けば40km/hまでは出せるのだという。近くで見たいという、好奇心の仕業だろう、自然とオーバルコースとの間合いが詰まっていったのだが、すると、
「だめだめ、危ない」
と、現場の責任者のような人が声を出した。グレーの作業服に身を固め、頭に作業帽を載せている。自動車会社とは面白いもので、デザインを担当している人は身なりがファッショナブルである。テストドライバーは「ワタシ、峠攻めてます」というオーラを全身から放っている。電気自動車の電池やモーターを開発している人は学者肌な人が多いように見受けられる。で、40年前の自動車運転教習所風な自動運転試験路に詰めている人は、なんというか、人の良さそうなおじさんだ。赤ちょうちんで一杯やったら話が弾みそうな雰囲気を醸し出している。

そのおじさん、いや担当者が、「今止めてお見せしますから」と言って、見学者一行を制した。テスト車両がぐるっと回ってスタート/フィニッシュラインのような場所に戻ってくると、スーっと電車が駅に停車するように、ではなくて、カックンといかにも唐突な感じで止まった。
「どうぞ中をお見せします」
の合図で一行そろってテスト車両に近づくと、一段と高い声が飛んだ。
「あ、ダメ、クルマの前は通らないでください」

フロントバンパーの前に差し出した足がフリーズ。抜き足差し足で後ずさりし、クルマの側面に回ってテスト車両を覗き込む。首を突っ込んで車内を見ると、スチール製のボックスが前後のシートの上に載っている。どんな風情かというと、40年前のオフィスにあるようなスチール家具風である。引き出しがついて中にファイルをしまい込むような感じ。そうしたスチール製の箱にスイッチがたくさんついている。

運転席にドンと載った箱はおか持ちくらいの大きさがある。そしてそこから黒い鉄の棒が伸び、先の方が3本に分かれてステアリングをがっちりつかんでいる。視線を下に移せば、金属の棒が1本はアクセルペダルに、もう1本はブレーキペダルに伸びている。ロボットが人間の替わりにクルマの運転操作を代行していると思えばよろしい。

で、どうやって周回路をコースアウトせずに走っているのかといえば、人間なら“自戒”だが、自動運転のテスト車両は“磁界”に頼っている。コースの外側と内側から磁力が出ている。テスト車両に装着された磁力センサーがコース脇から発せられた磁力の強弱を感知。左右の磁力が均衡する位置に留まるようステアリングを操作する。右側の磁力が強いと感知すれば左に修正し、左側の磁力が強いと判断すれば右に修正するのだ。

400mの周回コースに4台が同時走行できるシステムも組まれている。これは電車の運行で用いられているATS(自動列車停車装置)を応用したものらしい。などという話を聞くと、テスト車両がオーバルコースを周回する様子が、鉄道模型がジオラマを走行する様子にダブって見えるから不思議だ。

「本来無人なんで、人が乗ることはないんですけどねぇ」などとひとりごちるような調子で担当者が言いながらも、見学者を乗せてくれることになった。助手席に1名、後席に1名が乗車する。見学者が乗る際は「クルマの前は通らないで」と言うことを忘れないし、順番待ちをする見学者に向かって「ガードレールの外に出て」と言うことを忘れない。「乗っちゃって大丈夫なんだろうか」という不安感を抱かせる演出だろうか。

外から見ていると、動きだしはスムーズだが、停止はやっぱりカックンだ。制御室でテスト車両の動きを操る担当者に質問をぶつけてみた。
「どの程度の発進加速なんてすか?」
「0.2Gです」
「では、停止は?」
「減速も同じで0.2Gです」
「ずいぶん急に止まっているように見えますけど」
「ああ、あれは緊急停止ですから」
「普通に止められないんですか?」
「いや、ええ、まあ」
 僕は助手席に乗せてもらった。
「真ん中より運転席側に身を乗り出さないでくださいね。なにしろ、人が乗るようにはできてませんから」
「はい……」

400mの周回コースにデコボコだのザラザラだのいろんな路面が混在することを確認しようと思っていたのだったが、そんなことに気を配る余裕はなかった。なるほど、発進はスムーズだ。スムーズだが、車内は騒々しい。ステアリングを握る“鉄の爪”が落ち着きなくカチャカチャと神経質な音を立てて進路に微修正を加えるである。直線はまだいいが、コーナーに差し掛かるとすごい。極度の緊張で手が震えている免許取りたての初心者のような感じで、カチャカチャのピッチも高まる。とても落ち着いて乗ってはいられなかったが、貴重な体験をさせてもらったことに間違いアリマセン。


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