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【レースな世界紀行2004】その7の2 [レースな世界紀行 2004]

今週はどこにも出かけない、いや、出かけている場合ではないような情勢。出かけたいですねぇ、バーレーンでなくてもいいから。

その7の2
F1第3戦バーレーンGP
バーレーン

奄美大島だか淡路島だかシンガポールだか知らないが、面積707平方キロメートルもあれば、どこへ出かけるにしても運転のしがいがある。バーレーン島は実際には南北に細長い島だが、707のルートは26.5897…であり、仮に島の形が正方形だとすれば一辺は26.6kmほどになる。島の真ん中を走れば見渡す限りの陸地で、とても島にいる実感は湧かない。

F1バーレーンGP開催のために建設されたバーレーン・インターナショナル・サーキットは、バーレーン島のほぼ中央部にある。空港は島の北東端から橋を渡った小さな島にあって、首都マナーマはバーレーン島の北東部。僕が泊まったホテルはマナーマの東北の外れで海岸の近く。であるからして、ホテルを起点にレンタカーでサーキットに行くとすれば、南西方向に約20kmのドライブとなる。

空港でもらった大ざっぱな地図を頼りにサーキットに向かったのだが、地図など必要ないことが走り出してすぐにわかった。道のあちこちに案内標識があるからだ。標識を頼りに右に曲がったり左に曲がったりすれば、自動的にサーキットにたどり着く仕組み。たとえルートを外れても、どこかで必ずまた案内標識に出会うので、簡単にルートに復帰することができる。これは便利だった。

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ただし、一般道と高速道路の区別があいまいなのには困惑した。こちらの高速道路はアメリカのフリーウェイやドイツのアウトバーンと同じように通行が無料で、チケット発券のための施設もなければ料金所もない。角を曲がったら高速道路だった、というような趣である。

フリーウェイやアウトバーンと異なるのは、自動車専用の道路を走っていることをドライバーに意識させるような仕掛けに乏しいことだ。路側帯もなければ、緊急連絡用の電話もないし、サービスエリアもなければ、パーキングエリアもない。

さすがに中央分離帯はあるけれども、高速道路特有の設備ではない。そこでついつい、自分が高速道路を走っているのだか、一般道を走っているのだか、判断がつきにくくなる。高速道路を走っているつもりが、突如として信号なりランナバウトなりが現れて、一般道であることを知ったりする。勢い、急ブレーキの必要に迫られる。

旅行者だけがこんな危ない思いをしているのかと思えば、どうやらそうでもないらしい。地元の交通事情に精通した人物の話によると、高速道路と一般道の区別があいまいなせいで、バーレーンでは追突事故が多いのだそうだ。ウインカーを出さずに急な進路変更をしたり、前のクルマを執拗にあおったりするこの土地のドライバーのマナーにも問題があるらしいが。

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端正な佇まいのモスクを横手に見たり、アラブな雰囲気満点の迎賓館を通り過ぎたりしてマナーマに別れを告げると、大規模な工場群が現れ、石油タンクが現れ、パイプラインが現れし、コンクリートブロックで作ったこの地域特有の平屋の民家の群れが目に入る。目にする建物が変化するにつれて建物の密度が低くなり、ついには茫漠たる砂の荒れ地になった。見渡す限りサンドベージュ一色である。その中央を舗装したての黒々とした道路が一直線に伸びている。中央分離帯と路側帯にはデイトと呼ばれるナツメヤシが延々と続いている。

「これはスゴイところだ」と頭の中で感嘆の声を挙げていると、やがて遠くにナツメヤシの葉の形に似た屋根を持つ、サーキットの施設群が浮かんで見えた。誇張でなく、“砂漠の中のオアシス”のようだった。

バーレーン・インターナショナル・サーキットは、2004年4月4日に定められた初開催に間に合わせるため、突貫工事で建設が進められた。開催のほぼ1カ月前に完成式が執り行われて「建設が間に合わないから開催できない」という最悪の事態は避けることができた。だが、心配がすべて解消されたわけではなかった。

“砂”である。サーキット周辺の土地は、砂の大地だ。砂漠のようにフッと息を吹きかければパッと粉のように舞い上がるような性質ではなくて、土と砂をミックスしたような土地ではあるが、あたり一面が岩石とその仲間で覆われていることに変わりはない。ひとたび風が吹けば、あっという間にコースは砂に覆われてしまう。

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これは大変だとばかり、サーキット側はアスファルトで舗装されたコース両脇の砂地をセメントで固め、砂がコースに乗らないような配慮をした。サーキット施設の外側から内側に砂が入り込まないよう、ナツメヤシをたくさん植えて防砂林を作るアイデアもあったようだが、こちらは時間切れで対策ができずじまいとなった。

エンジンは大気中の空気を燃焼室に取りこんでいるが、空気と一緒に砂を取りこんではトラブルのもとになる。F1のエンジンには、乗用車のエンジンと同じように砂やホコリをキャッチするエアフィルターが取り付けられているが、トヨタはバーレーンGPのために、濾過面積が広く、目の細かい特製フィルターを用意して対処した。他のチームも同様の対処をしたようだ。

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タイヤは表面のゴムが柔らかければ柔らかいほどグリップ力が増す性質を持っているが、柔らかくするほどに砂が付着する傾向が強くなるので、「ワンランク固めのタイヤを持ち込んだ」とブリヂストンの浜島裕英モータースポーツ開発室長は説明した。
運が良かったのだろう。日曜日にちょっと強い風が吹いて関係者をヒヤッとさせたが、総じて穏やかな天候に恵まれ、砂が猛威をふるうことはなかった。エンジンもタイヤもドライバーもたいしたトラブルに遭遇せず、レースに集中することができた。

だが、来年も大丈夫、とは保証できない。決勝レース翌日の月曜日は朝から強い風が吹いていた。晴天であるにもかかわらず、サーキット周辺は舞い上がる砂のせいで黄色っぽかった。道路の至るところで砂煙が踊っていた。労働者たちが側溝に詰まった砂を掻き出していた。2005年バーレーンGPの準備は、砂の山からサーキットを掘り出す作業から始めることになるかもしれない。

心配は砂だけではなかった。果たしてバーレーンくんだりまで客はやってくるのだろうか。こちらも心配の種だった。
(つづく)

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