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「エンジンはなくならない」宣言をしたも同然のマツダSKYACTIV-X [クルマ]

マツダは2017年8月8日、2030年を見据えた技術開発の長期ビジョンを発表しました。同時に、このビジョンの実現に向けた技術のひとつとして「SKYACTIV-X(スカイアクティブ・エックス)」と名付けた、圧縮着火のガソリンエンジンを発表。2019年から導入するとしています。

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SKYACTIV-Xは「理想の燃焼」とか「夢の技術」と言われて久しいHCCI(予混合圧縮着火燃焼)を採用しています。空気と燃料をよく混ぜる(その状態が予混合)のは火花点火(点火プラグで予混合気に着火)と同じですが、HCCIは火花点火に頼らず、圧縮による温度上昇を利用して、ディーゼルエンジンのように自己着火させます。

「予混合」して「圧縮着火」するので、予混合圧縮着火燃焼。すなわちHCCI(Homogeneous Charged Compression Ignition)。対する火花点火はSI(Spark Ignition)と略します。

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火花点火で着火しないほどリーンな混合気を安定して燃焼させるために、圧縮比を高めて自己着火に必要な高温を得ます。空気中の酸素とガソリンが過不足なく燃焼する空燃比(A/F)は14.7(燃料1gに対して空気14.7g)です。リーンにするとはガソリンに対して空気の比率を高めることで、空燃比の数字は大きくなります。

SKYACTIV-Xは「理論空燃比をはるかに超え2倍の薄さで燃えるスーパーリーン燃焼圧縮着火」と説明していますので、2倍だとして空燃比は29.4。発表資料では、空燃比36.8(理論空燃比の2.5倍。λ=2.5)で圧縮着火した際の、燃焼の状況を撮影した画像を紹介しています。

内燃機関は空燃比をリーンにするほど、熱効率が上がります。無駄が少なくなり、同じ出力を得るのに少ない燃料消費で済むようになります。SIの場合は点火プラグまわりで着火した火炎が混合気に伝播していく火炎伝播燃焼ですが、HCCIの場合は同時に多点着火し、急速に燃焼していきます。多点着火急速燃焼です。短時間で急速に燃えるため、効率良くエネルギーを取り出すことができます。

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HCCIの実用化に対するハードルのひとつは、全域でHCCI運転ができないことでした。低回転・低負荷では温度不足による失火が発生し、高負荷時にはノッキングが発生するのでSI運転に切り換える必要が出てきます。

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SKYACTIV-Xは、高回転高負荷ではHCCIからSIを切り換えて運転します。そのため、点火プラグを備えています。

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その点火プラグをHCCIの制御にも使っているのが、SKYACTIV-Xの特徴。SI運転の場合は点火プラグの火花をきっかけに燃焼が始まります。HCCIの場合、燃焼の始まりは混合気まかせです。毎度毎度、理想とするタイミングで燃焼が始まるとは限りません。

そこで、点火プラグで火種を作ることで、同時多点着火を誘発する仕組みとしました。点火プラグでできる膨張火炎球が混合気を追加圧縮することで、多点着火を誘発すると説明しています。

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点火プラグによって圧縮着火をコントロールするので、マツダはこの技術をSPCCI(Spark Controlled Compression Ignition)=火花点火制御圧縮着火と呼んでいます。似たような技術は他社でも研究されていますが、実用化にこぎつけたのはマツダが先で世界初です。

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ところで、混合気の体積が一定ならリーンにした分だけ燃料の量は少なくなり、熱効率は高くなったとしてもトルクは低下してしまいます。トルクの低下は排気量を大きくすることでも解決できますが(SKYACTIV-Xの排気量、気になりますね)、過給することでも解決できます。

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マツダは「エア供給機能」を採用してシリンダーに空気を「押し込む」と表現し、過給とは(あえて?)言っていません。どんなエア供給機を使っているのかも気になりますね。

また、マツダはエア供給機能を採用した理由を、「圧縮着火領域の拡大を可能にするため」と説明しています。ノッキングが緩和されるためでしょうか。

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SKYACTIV-Xは空気を押し込んでいるためレスポンスに優れるし、圧縮着火燃焼を維持しながらたくさん燃料を噴射できてトルクも発生させられ、力強い走りを実現することが、マツダの発表資料から読み取れます。マツダは「SKYACTIV-X」の提供価値のひとつに「走りの良さ」を掲げています。実際どうなのか、非常に気になるところです。

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マツダは「クルマのライフサイクル全体でのCO2削減に向け、Well to Wheel視点でのCO2削減に取り組む」と宣言しました。電気自動車(EV)は走行中(Tank to Wheel)にCO2を発生しませんが、発電時にCO2を発生しているのが現状です。

ですので、(発電時にCO2を発生しない)クリーン発電地域や大気汚染を抑制する必要のある地域で、EVなどの電気駆動技術を展開する(2019年から)としています。

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将来的にハイブリッド車やプラグインハイブリッド車が急速に増えていくにしても、内燃機関(エンジン)と組み合わせていることに変わりはありません。2035年になっても、乗用車の新車販売に占める内燃機関を積んだ自動車の割合は84.4%を占めるという予測もあります。

つまり、(電動化技術に力を入れることも大切ですが)内燃機関の効率を高めてCO2排出量を減らすことが、今後も重要だということです。内燃機関の効率を高めれば、電動化技術と組み合わせた際に、電動コンポーネントの負担を軽くすることにもつながります。

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つまり、エンジンはなくならない。おや? そんなことが書いてある本がありますね↓



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