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2014年のF1マシンはなぜ止まれない? [F1]

2014年のF1第1戦オーストラリアGPで、ケーターハムCT05に乗る小林可夢偉選手は、スタートで好ダッシュを見せたものの、1コーナーで止まりきれずに前を走るF・マッサ選手のウィリアムズFW36に激しく追突。グラベルに飛び出してレースを終えました。ドライバーに何ごともなかったのが幸いに感じるほど、マシンは激しく損傷しました。

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リヤのブレーキが機能していなかったのが「止まりきれなかった」原因でした。前後のブレーキが受け持つ配分は、大まかに言って60:40です。その(最大)40が得られなかったのですから、ドライバーがイメージしたとおりに止まれるわけはありません。

当初、可夢偉選手は自分のミスだと思ったようですが、そう感じたとしたら、CT05というクルマの性質をまだ把握しきれていないのでしょう。それだけ走り込みが不足した状況で戦いに臨んでいる(臨まざるを得ない)ということです。

フリー走行では多くのマシンがコーナーで十分減速しきれず、コースの外に飛び出すシーンが見られました。原因は「パワード・リヤ・ブレーキング・システム」あるいは「ブレーキ・バイ・ワイヤ(BBW)」などと呼ばれるシステムと決めつけていいでしょう。量産ハイブリッド車や電気自動車で言うところの「電子制御ブレーキ」「協調回生ブレーキ」です。

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フロントブレーキはこれまでどおり油圧で作動しますが、リヤは油圧ブレーキと回生ブレーキの配分を電子制御していいことになりました。回生ブレーキとは、モーターを用いて減速時の運動エネルギーを電気エネルギーに変換する機能です。

日産リーフにおける協調回生ブレーキの説明↓



2014年はモーター/ジェネレーターユニット(MGU-K)の出力が倍(120kW)になったので、協調制御しないと制動時の安定性/安全性を確保できないため、導入に至りました。昨年まではドライバーが手動で前後のブレーキバランスを調整するなどして、やりくりしていました。

bbw_system_small.jpg

上の図は電子制御ブレーキシステムのシステム構成と作動原理を示しています。ブレーキペダルの操作量などから要求制動力を検出し、油圧ブレーキと回生ブレーキを協調して制動力を発生させます。上の図は完全なバイ・ワイヤの例として描かれていますが、F1の場合はフェールセーフを確保するためマスターシリンダーからキャリパーまで油圧ラインはつなげる決まり。電子制御系が間に介在する格好です。なので、“セミ”バイ・ワイヤです。

理想的な制御を示したのが下の図です。ドライバーはGの変化を嫌います。制動力は一定であってほしい。油圧と回生の配分がどうだろうと知ったことではありません。一方、エネルギーの回生効率を考えるなら、回生ブレーキ(MGU-K)をマックスで機能させたい。回生ブレーキで足りない制動力を油圧ブレーキで補うのが基本。制動の立ち上がりと終わりの領域はフィーリング面に与える影響が大きいので油圧ブレーキの受け持ち分を多くしますが、油圧と回生の受け渡し加減が難しい。

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下の図はヘタな制御の例。ドライバーの要求制動力(黒の破線)を満たしていません。制動力が足りないと感じたらドライバーは踏み増してしまうし、過剰と感じたらペダルを踏む力を緩めてしまう。減速Gは安定せず、ぎくしゃくしながら速度が落ちることになります。こんな状況だと、イメージどおりに止まれません。

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F1をはじめとするレーシングカーで協調回生ブレーキが難しいのは、短時間に緻密な制御が求められるからです。下の図は、量産車(左)とレーシングカー(中)、量産スポーツカー(右)の減速時間と、減速時に回生するエネルギー量をイメージしたものです。レーシングカーはものすごく短い時間にたくさんのエネルギーを回収しなければならないことがわかります(青=油圧ブレーキ/緑=回生ブレーキ)。

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(クリックで拡大)

しかも、リヤブレーキとMGU-Kの間にギヤボックスが介在しており、これが制御を難しくしています。減速する際はダウンシフトしますが、ギヤの断続を行う際はモーターの力を抜いてやらないと、ギヤ(ドッグリング)が抜けません。ですので、わずか0.05秒の変速時間の間に、回生しているMGU-Kをいったん休ませ、変速し、1段落ちたら回生を再開、を繰り返すわけです。制御も大変ですが、モーターも大変です。

路面μが刻々と変化する状況でダウンシフトを行いながら、最大の効率で回生を行い、Gの変動もなくドライバーの要求制動力を満たさなければいけないのが、2014年に導入されたパワード・リヤ・ブレーキング・システム。ヨーが残ったまま(いわゆる旋回制動)ブレーキングしたはいいが、制御がうまくいかずにGの変動が出たりすると、ドライバーは対処する間もなくスピンモードに陥ったりします。

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エネルギー回生システムの出力が上がっているということは、使用する電圧や電流も大きくなっているということです。そこで課題として浮上してくるのは、高電圧/高電流により発生するノイズだそう。どう影響するかというと、コンピューターが暴走する。「前の周は大丈夫だったのに突然利かなくなった」というような症状の場合、ノイズを疑う必要もありそうです。

オフシーズン中、わずか12日間の実走テストで制御を洗練させるのは無理、とは言いませんが、かなり無茶。でも、急速に進化させてしまうのがF1なのでしょうね。

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toshi

気になっていたのですが、WECのトヨタと今回のF1は同じ仕組みだと考えていいのでしょうか?
それとアウディのフロントブレーキも同じですか?
by toshi (2014-03-18 15:20) 

世良耕太

トヨタTS030ハイブリッドと2014年のF1は同じコンセプトです。アウディR18 e-tronクワトロは2013年までのF1と同じで、前後のブレーキバランスを調整してやりくりしていたようです。
by 世良耕太 (2014-03-18 18:28) 

toshi

ありがとうございます。
アウディのブレーキについては初めて知りました。
by toshi (2014-03-18 19:35) 

AUTOCAR読者

世良さんこんにちは。先日のバーレーンはすごい接戦でしたね!ところでブレーキに関してですが、今まではブレーキングで白煙を上げるのは主にフロント(特にイン側)でしたが、最近はリアからも白煙が上がっているように見えます。これは私の見間違えかもしれませんが、もしかしたら回生量が増えて、リアがロック寸前になっているのでしょうか?それでもコントロールを失わないのは、バイワイヤの効果なのかなと勘ぐっています。
by AUTOCAR読者 (2014-04-09 14:55) 

世良耕太

鋭い観察力ですね。ご指摘のとおり、回生量の絶対値が増えたのが、要因のひとつかもしれません。もうひとつは「バイ・ワイヤ」。本来なら、回生ブレーキと油圧ブレーキの配分を上手に制御しなければいけないところ、それができておらず、不本意ながらロックしてしまう、という理由が考えられると思います。
by 世良耕太 (2014-04-09 22:21) 

AUTOCAR読者

ありがとうございます!プロの方からお褒めの言葉をいただき、大変嬉しいです。
電子制御とは簡単そうに見えて、実はとても難しい物なのですね。
by AUTOCAR読者 (2014-04-10 21:51) 

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