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【レースな世界紀行2004】その13の2 [レースな世界紀行 2004]

当初の目論見どおり(ウソ)、日本GP前にすべてアップし終えることができました。これにてシリーズ終了です。長らくお付き合いのほど、ありがとうございました。レースの話はあまりしませんでしたが、レースはつづくよいつまでも。

その13の2
F1第17戦日本GP
日本・鈴鹿

主役もゲストも松阪牛を食べるのに一所懸命で、エンジン開発に関する貴重な意見を言おうとか、あるいは聞こうとか、そんな雰囲気はまったくなかった。あったとすれば唯一こんなやりとりである。

「来年、マーク・ウェバーの加入が決まっていますね。ジェンソン・バトンとは契約問題がこじれてどうなるかわからない状態ですが、もしバトンの獲得に失敗したら、他に誰がお望みですか?」

テーブルを囲んだゲストのひとりがこうたずねると、タイセンさんはかすかな笑みを浮かべてこう答えた。
「マイケル」
マイケルがミハエル・シューマッハを意味することぐらいは、いくら酒が入っていようが、脳に行くはずの血液が大挙して胃に向かっていようが、察しがついた。でも、そこは砕けた場である。冗談のひとつも飛ばしてみたくなるというものだ。

「マイケルって、ジャクソンのことですか?」
 こう質問すると、タイセンさんは笑みを浮かべてこう切り返すのだった。
「いや、ムーアだ」
         ☆
金曜日は朝から雨だった。それもかなり強い降りである。台風22号の接近にともなって、秋雨前線を刺激しているのが原因らしかった。佐藤琢磨効果で、日本グランプリの観戦チケットは、それこそ飛ぶような売れ行きだったと聞いた。期待に胸をふくらませて鈴鹿サーキットまでやって来たはいいが(それも平日に)、雨の中の観戦とあっては本当に気の毒である。しかも、あまりに雨が強すぎて走行を見合わせるチームが多く、なかには、1周も走行しないドライバーもいた。

IMG_3514.jpg

夕方になって、土曜日のプログラムが中止になることが決まった。F1始まって以来のイレギュラーな出来事である。台風が直撃する可能性が強まり、被害がおよぶことを恐れての措置だった。土曜日に予定されていた予選は、日曜日の午前中に持ち越されることになった。台風の接近を翌日に控えた金曜日でさえ、鈴鹿サーキットの路面コンディションはひどいものだった。傾斜がついているところはことごとく川になっていた。5歩も歩けば膝から下はずぶぬれ。予選の中止、サーキットの閉鎖は賢明な措置だったと思う。

というわけで、スケジュールにぽっかりと穴が開いた。穴が開いたのは原稿を書くジャーナリスト連中ばかりではなく、チームで働くクルーも同様である。僕が泊まっていたホテルには、パナソニック・トヨタ・レーシングのクルーも泊まっていたのだが、夕食を終え、深夜1時頃にホテルに戻ると、彼らは狭いロビーを占拠して酒盛りをしていた。楽しそうだった。

土曜日の朝。サーキットへ様子を見に行くのだろう、マクラーレンのチームウェアを着たクルーがテーブルを取り囲み、朝食をとっていた。隣でひとり朝食をとっていると、「タイフーン」という言葉が幾度となく耳に飛び込んできた。さらに様子を窺っていると、「台風の風にあおられて、機材がめちゃくちゃになったらどうしよう」と心配するよりも、アジアの島国で経験する未知の自然現象に好奇心満々といった様子であることがわかった。

そこへ、トヨタのPR氏が現れ、目の前に座った。座るなり「タイフーンは来るのか?」と質問をぶつけてくる。
「テレビのニュースで見たばかりだけど、近づいているみたいだね」
「真っ直ぐこっちに来るのか?」
「いや、東にそれたみたいだ」
「風は吹くのか?」
「吹くだろうけど、心配することないと思うよ」
「雨は強くなるのか?」
「どうかなぁ。そこまでは分からないな」
「オレ、タイフーン経験するの初めてなんだよねぇ」

もう矢継ぎ早である。幸い、台風22号は鈴鹿サーキットのある三重県を直撃することなく、静岡方面へそれた。鈴鹿一帯の雨はむしろ金曜日の方がひどかったくらいで、夕方の4時過ぎには雨も上がり、雲の切れ間から薄日が差した。

その翌日のことである。タイフーンを初めて経験した(つもりでいた)外国人ジャーナリストが、日本人メディアをつかまえて「タイフーンを初めて経験したけど、たいしたことないじゃん」と言ったらしい。日本人メディアはパソコンを開いてニュースサイトに接続し、被害状況を伝える写真を見せてやると、浮かれた外国人ジャーナリストは凍り付いたようになって、こう言ったとか。

「鈴鹿に来なくて良かった……」

IMG_3522.jpg

僕たちが海外に行って、初めて見るもの、初めて経験することに新鮮さを覚えるように、外国からやって来る人たちにとっては、寿司や台風に日本的なものを感じ、感動を覚えるようである。そういえば、僕らにとっては当たり前のように慣れ親しんだ、ジャストサイズ(?)のビジネスホテルも、30平方メートル、40平方メートルに慣れた欧米人にとっては、感動の対象になるようである。スーツケースを広げる余裕もない狭さ加減が、理解の範囲を超えていたようで。(おしまい)

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