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【レースな世界紀行2004】その10の3 [レースな世界紀行 2004]

うーん、インディ500ぅぅぅ。

その10の3
F1第8戦カナダGP〜第9戦US GP
カナダ・モントリオール〜アメリカ・シカゴ〜ロサンゼルス〜インディアナポリス

カナダGPの翌週にインディアナポリスでF1が開催されるので、日本には帰らず、そのままアメリカに移動した。今回の旅では、アメリカはマーチャンダイズの国だ、ということがよく分かった。ロサンゼルスの南郊、コスタ・メサに本拠を構えるTRD USAの副社長、デイビッド・ウィルソンさんはこう説明した。

「アメリカでのライセンスビジネスは巨大です。もし、あなたが誰かのファンだとすれば、あなたはサーキットに行った際、必ずお目当てのドライバーのグッズを買うでしょう。NASCARで最も人気のあるドライバーは、年間7000万ドルをマーチャンダイズで稼ぎます。言うまでもなく、ドライバー契約料を上回る金額です。NASCARに行けばわかりますが、Tシャツやキャップを売るトレーラーに人だかりができています。おそらく、サーキットを訪れる95%以上のファンが関連グッズを身につけています」

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というような話を聞いてからインディアナポリスを訪れたわけだが、笑っちゃうくらいウィルソンさんの言うとおりであった。NASCARだろうとIRLだろうとF1だろうと、レースを見に来る人たちの趣向は共通するらしい。インディアナポリス・モーター・スピードウェイを歩く人、みんながみんな上から下までマーチャンダイズで身を固めていた(ちょっと大げさですが)。

それだけじゃあない。ホテルでは、エレベーターに乗ろうとロビーにいようとレストランにいようと、そこにいるのはみーんなF1を見に来た人たちである。なんでそんなことがわかるかというと、その人たちは、カップルであろうと若者のグループであろうと家族連れであろうと、みーんな全身マーチャンダイズで身を固めているからだ。お母さんと子供は全身フェラーリ、お父さんは全身ウィリアムズ。「インディアナポリス2004」のロゴが入ったキャップとTシャツでコーディネートしたカップル。全身ウィリアムズで決めたビール樽体型のお父さんはベビーカーを押してお出かけ、といった具合。GAPのポロシャツを着ている僕など、肩身が狭くて仕方なかった(再びちょっと大げさ)。


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アメリカ人のマーチャンダイズ好きな傾向はよく分かったが、彼らは一体、サーキットで買ったキャップやらTシャツやらを、サーキット以外の場所でも身につけるのだろうか。年に1回のイベントを訪れた記念に現地で買い求め、買ったそばから身につけてオシマイなのだろうか。それとも、しばらくは週末のウェアとして活躍するのだろうか。疑問が湧いてきた。

おっといけない、モントリオール、インディアナポリスと2回もF1を観戦しておいて、肝心のレースの話をしていないではないか。要点だけかいつまんでお知らせすると、この2回のグランプリで最も印象に残ったのは佐藤琢磨選手であった。

インディアナポリス・モーター・スピードウェイで行われた第9戦US GPで、佐藤選手は日本人F1ドライバーとしては実に14年ぶりに表彰台に上がる快挙(3位)を成し遂げたのだが、僕が印象に残ったのはそのことではない。いや、もちろん、一時は9番手にまでポジションを落としながら、コース上で前を走るマシンを次々に追い抜き、最終的に3位の座を手に入れた過程は手に汗握るものがあった。表彰台に日の丸が揚がるシーンに無感動でいられようはずがない。

だが、瞬間的な感動の大きさで言えば、その前日、土曜日の予選で見せた佐藤選手の走りに対する観客の反応、これを肌で受け止めたときの感動に軍配が上がる。

土曜日の予選を、僕は観客と一緒に見ていた。バンクと、その外側に立ちはだかる観客席にこだまするエグゾーストノート。これをダイレクトに鼓膜で受け止めながら、目の前にある大型スクリーンでドライバーの走りを見守り、場内のスピーカーから流れる実況に耳を傾けていた。

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実況は英語と現地語のバイリンガルである。英語の方はどこのサーキットに行ってもボブ・コンスタンデュロスというイギリス人ジャーナリストが担当する。日本人の仲間内では“ボブコン”の愛称で呼ばれているが、彼はFIA主催のプレスコンファレンスで司会を務めているし、レース前に行われるドライバーズパレードでも長年実況を務めている。こうした活動から、司会=ボブコンというイメージが定着したのか、チームが催す新車発表会にも引っ張りだこだ。この年のトヨタの新車発表会で司会を受け持ったのも、ボブコンであった。

そのボブコンが淀みない口調で目の前で展開される現象を説明する。
「昨年のこのレースでポールポジションを獲ったキミ・ライコネンがコントロールラインを通過。スピードトラップで時速336.6キロを記録しました。この調子でいくとセクターワンの記録も期待できそうです」

みたいな感じだ。話の区切りがつくと、現地語の実況に切り替わる。フランスではフランス語、イタリアではイタリア語である。フランス語やイタリア語は理解できないので何と言っているのかわからなかったが、おそらく英語で実況している内容の繰り返しだろう。英語を理解する観客より、現地語を理解する人間の方が多いはずで、彼ら彼女らにとっては、現地語こそが目の前の状況を理解するための命綱だ。

英語を母国語とするアメリカなのだから、英語と現地語の掛け合いは必要ないんじゃないか、という思いで最初は実況に耳を傾けていたのだが、耳を傾けているうちに「これは絶対に必要だ」と考えを改めた。なんとも、独特の味があるからだ。

英語と英語の掛け合いでなく、イギリス英語とアメリカ英語の掛け合いなのだ。ボブコンはシャキシャキパキパキと角の立った英語でまくし立てるように実況する。一区切りついたところで、現地の実況に切り替わるのだが、これがレロレロまったりとした典型的なアメリカ英語なのだ。両者が伝えている内容は大同小異なのだが、ボブコンの実況を聞いていると、「あ、なんだかヨーロッパでF1見ているみたい」という気になる一方で、現地の実況者の言葉を聞いていると「ああ、ここはアメリカだねぇ」というまた別の感慨がこみ上げてくる。パキパキ、レロレロの対照が面白い。

後で聞けば、現地実況を担当していたのは、インディ500の実況でもおなじみの名物コメンテーターだそう。マシンガンのように矢継ぎ早に言葉が飛び出すボブコンの実況に乱されることなく、独自のまったりともったい付けるような調子を守り通していた。

スタンドが割れんばかりの歓声に包まれたのは、フェラーリのミハエル・シューマッハが、それまでのトップタイムに大きく差をつけて暫定トップの座に立った瞬間だった。フェラーリはどこのサーキットでも絶大な人気を集めており、こうした観客の反応は僕にとっては予想の範囲内だった。確かに、それまでのトップタイムを0.8秒近く上回るタイムを記録したのは驚きだったが、「ああ、やっぱりな」と感じたのもまた事実である。

でも、佐藤選手の走りに対する観客の反応は、まったくの予想外だった。
「タクマがセクター2を通過しました。なんと、シューマッハを1000分の86秒上回っています!」
とボブコンが絶叫すると、まるで地鳴りのような歓声が沸き上がった。続いて、現地コメンテーターが、「日本人ドライバーのタクマ・サトーがチャンピオンより速く走っている」と、まったりとした口調で追いかける。

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「シューマッハより速いなんて信じられるか、オイ」という反応だったのだと思う。大型スクリーンは、コーナーを果敢に攻める佐藤選手の姿を映し出していた。最終のセクター3で少しタイムを失った佐藤選手は、結局シューマッハの記録したラップタイムを上回ることができなかった。

「残念。タクマは惜しくもシューマッハのタイムを上回ることができませんでした」
ボブコンがいかにも悔しそうに実況をすると、観客席は大きな溜め息に包まれた。みんなでいっせいに万馬券を取り損ねたかのような落胆ぶりだった。

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