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【レースな世界紀行2004】その7の3 [レースな世界紀行 2004]

バーレーンの回は今回でおしまいです。春が(もっと言うと夏が)待ち遠しい。

その7の3
F1第3戦バーレーンGP
バーレーン

心配は杞憂に終わったと言えるだろう。見たところ、サウジアラビアなど近隣の裕福な国から大勢の客がやって来ていたようだった。中東ばかりでなく、ヨーロッパからも多くのファンがやって来た。収容能力4万5000人のところ、決勝レース日は4万人の観客でにぎわったと聞く。

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初めてF1を体験する客も多かったようだ。どうしてそれがわかるかというと、“音”である。F1マシンの排気管から放たれる音はハンパでなく大きい。テレビのボリュームを最大にしてF1サウンド耳元で聞いたとしても、生の迫力には敵わない。音が大きいだけでなく、圧力があるのだ。目の前を時速300キロ超でF1マシンが通り過ぎた後の観客席を眺めると、両手で耳を覆う人の姿が目立っていた。「なんだコレ!」という表情である。その顔がみな、惚けたような笑顔なのが興味深い。

テロの脅威も心配だったが、杞憂に終わって心底ホッとした。それにしても、空港でも町中でもサーキットでも、気抜けするくらいユルユルのセキュリティ態勢だったが、あれは一体何だったのだろう。

サーキットを入るにしても手荷物チェックひとつなかった。セキュリティが鋭い目を光らせてあちらこちらを徘徊しているわけでもない。その気になったら持ち込み放題、やり放題だったと思うが、一般人の目の届かないところで監視の目が光っていたのだろうか。ベルトを外させ靴まで脱がせるアメリカの空港セキュリティとまではいかないが、ある程度の不便を覚悟していただけに、拍子抜けがした。ユルユルなセキュリティ態勢で油断させ、相手の尻尾をつかまえる、バーレーンなりの新たな作戦だったのだろうか。

ヒヤッとしたのは、レースがあと30分で始まろうかという頃である。グランドスタンドに陣取っていると、最終コーナーの方角から旅客機がゆらりゆらりと低空飛行でこちらに向かって飛んできた。その姿が巨大なスクリーンに映し出された。金色に塗られた巨体に「ガルフ・エア」と書いてある。

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バーレーンGPの冠スポンサーは、UAEなどペルシャ湾岸4カ国が共同出資して運航する航空会社である。F1グランプリではレース当日、場を盛り上げる催し物として戦闘機の編隊飛行を見せたり、パラシュートによる降下を見せたりする。ガルフ・エアのゆらゆら低空飛行もそのひとつだと頭では理解したが、「ひょっとして、ひょっとするかも」という疑念は、旅客機が視界から消えるまで立ち去らなかった。

金色の旅客機は、おそらくコクピットの中ではいろんな警報機がアラーム音を鳴らさずにはおかないような超低速低空で、最終コーナー方向からVIPタワー方向に向けて飛び、巨体を左右に揺らして腹と背中を交互に見せた。突拍子もない見せ物に観客席は拍手と歓声の嵐だったが、旅客機が視界から消えたとたん、重たい溜め息に包まれた。みな、疑念を捨てきれなかったようだ。

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VIPタワーにはバーレーンのシャイク・サルマン・ビン・ハマド・アル・カルファ国王のほか、ゲストとしてヨルダンのアブダラ国王、スペインのファン・カルロス国王、イギリスのアンドリュー王子にモナコのアルバート王子、ドバイのマクトゥム・ハシャ・マクトゥム・アル・マクトゥム王子にブルネイの君主、リヒテンシュタインのハンス−アダム王子が臨席するなど王族のオンパレードであったが、心中いかばかりであったか。

タクシーはホテルのエントランスなど所定の場所で拾えるほか、手を挙げて流しを拾うこともできる。日本と同じだといえるが、大きく異なるのは、運転手がみなトゥーブと呼ばれる白い布をまとっている点だ。

概して運転手はフレンドリーである。料金メーターはついていたが、6日間の滞在中、一度もメーターを使う運転手に遭遇しなかった。日本のタクシーと同じように、後席両サイドの窓に貼り紙(というより貼り透明シート)がしてあり、「最初の3kmで0.8ディナール」とハッキリ記載があるのだが、みな言い値である。言い値がドライバーによってまちまちであり、日が進むにつれてエスカレートする傾向にあった。

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何回タクシーに乗っただろうか。どれもマナーマの市内を移動しただけなので、間違いなく3km以内である。本来なら0.8ディナールで済むはずなのに、要求された金額は2ディナールから10ディナールに及んだ。支払ったのは2ディナールから4ディナールであった。目的地に着いて「いくら?」と聞くと、運転手はたいていこう言う。

「いくら払う? マイ・フレンド」
「3ディナール」
「いや、6だ、マイ・フレンド」
「なんで6なんだよ。さっきは同じルートで3しか払っていない」
「いや、6だ。道が混んでいるし、それに夜だから、マイ・フレンド」
「6なんか多すぎる。空港まで行けちゃうだろ。3で十分だ」
「いや、6もらわなきゃ合わないね、マイ・フレンド」

強いこと言いながら「マイ・フレンド」で親近感を出そうとする攻め口だ。このような応酬の末に2から4に落ち着くのである。乗り込む前にあらかじめ運賃をフィックスする方法も試したが、値決めの応酬を省略することはできなかった。

そんなこんながあっても、タクシーの運転手は基本的にフレンドリーである。乗り込んでこちらが日本人だと見ると、たいていはこう言う。

「日本人か?」
 日本人だと答えると、ダッシュボードととんとん叩きながらこう言う。
「そうか。このクルマ日本車なんだぜ」

何度同じやり取りを経験したことか。最新のトヨタ・カローラを運転するドライバーもいれば、直線道路を走っているのにステアリングが左に傾いでいる25年前のトヨタ・マークIIに乗るドライバーもいる。そして、彼らは最後に決まってこう言う。
「日本車は優秀だよ」
フレンドリーなのは大歓迎だが、愚痴を聞かされてはたまらない。ある運転手は、自分がいかに疲れているかを乗客である僕に訴えた。

「オレはトラックを20年運転していたんだ。昼はトラックに乗り、夜はタクシーを運転した。この5〜6年はタクシーだけだ。毎日タクシーに乗っていると背中と膝が痛くなる。それにこの渋滞。マナーマはいやだね、混んでるから。排気ガスもひどいしさ、ストレスが溜まるよ……」

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また、ある運転手はこう訴えた。この運転手は人が行き先を告げると「知らない」と平然と答えた。ホテルの名前を言い、通りの名前を言ったが「知らない」を繰り返す。直線距離にして1kmほどの場所にもかかわらずである。歩道にたむろっている運転手仲間に聞いて回っているが、理解に苦しんでいる様子。

ここでいたずら心に火がついた。旅の同行者が助手席に移動してエンジンを掛け、僕が運転席に乗り込んでドアを閉めると、運転手はあわてて駆け寄ってきた。
「何すんだよ。道わかったから行くよぉ。でも、オレ基本的に運転嫌いなんだよな。道知らないし……」
(つづく)

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