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【レースな世界紀行2004】その4の2 [レースな世界紀行 2004]

F1オーストラリアGP編は今回で終了。いったん日本に戻ります。

その4の2
F1開幕戦オーストラリアGP
オーストラリア・メルボルン

F1ドライバーは多忙だ。トヨタのドライバーを例にとってみると、2月末にイタリア・イモラで最後のオフシーズン・テストを終えた彼らは、直接オーストラリアに乗り込むことをせずに東京に立ち寄り、ファンやスポンサーやトヨタの従業員に向けたイベントをこなした。

過密なスケジュールを嫌な顔ひとつ見せず、と書きたいところだが、嫌な顔を見せないように精一杯努力して日本を後にし、オーストラリアはシドニーに着いたのが、開幕レースが行われる週の火曜日のことである。メルボルンにはまだ着かない。

笑顔でプロモーションイベントをこなしながらも、彼らが内心落ち着かない様子なのは、ライバルである他のドライバーの何人かが、すでにメルボルン入りを済ませていたからだった。メルボルン入りを済ませているドライバーにしたって、特別何かをしているわけじゃない。金曜日の午前11時になるまでサーキットでF1マシンを走ることはできないのである。でも、先に現地に入っているというだけで、「先を越された」感じをドライバーは受けるのだろう。

火曜日にシドニーに入ったトヨタのドライバーは、トヨタの現地法人に向けたプロモーションイベントを行ったのちに、メルボルンにたどり着いて一段落と相成った。これについて面白いエピソードがある。メルボルンにはトヨタの生産工場がある。前年は、ふたりのドライバーが工場を訪れ、従業員に向かって「頑張ります」という宣言を行い、従業員は従業員で「頑張ってくれや」とエールを贈るイベントが執り行われたのだが、そのことについてゆゆしき問題が生じたのである。

「おいおい、もうすぐF1ドライバーがやってくるゼ」という訳で、従業員たちは仕事をする手が次第におろそかになった。おろそかになった結果というのは、即座に製品の品質に跳ね返る。後で調べてみると、ドライバーがやって来る何日か前の製品は顕著な品質低下が見られたのだという。

そんなわけで翌年、工場訪問は取り止めになり、会社は従業員に観戦チケットを半額で斡旋。チケット購入者にはチームウェアなどを配る方式に改めた。「オーストラリア人たら、なんてだらしない」とは思わない。むしろ、F1ドライバーが来るってんで、仕事が手につかずそわそわしているサマを想像すると微笑ましくなってくる。

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新しいシーズンを戦うF1マシンを間近に見ておこうと、外に出た。でも、観客席には直行しない。売店で生ビール(4.8豪ドル=480円)を買い、フィッシュ&チップスを買うことを忘れなかった。要するに、すっかり観客気分なのだが、こういうときのために「客の立場に立ってF1を観戦することは、いい記事を書くためには必要なのだ」という言い訳を用意している。

ビールがこぼれないように気を付けながら、そろそろと観客席にたどり着いたら1時になった。「まずい、メシを食わないうちにセッションが始まってしまう」とそわそわしていると、F1ではなくてBMWのコンパクトがスーッと目の前を通り過ぎていった。

これはナンゾや。メモを取りだしてスケジュールを確認すると、F1のフリー走行開始は午後2時からとしっかり書いてある。なんのことはない、1時間間違っていたのだ。目の前で行われているのは“BMWセレブリティ・チャレンジ”で、オーストラリアの有名人たち、すなわち、俳優やらスポーツ・コメンテーターやらオリンピックのゴールドメダリストやらボクサーやらがステアリングを握っているのだ。

プロフェッショナルのレーシングドライバーでないので、ライン取りはまちまちだし、ときにはミスをして、コーナーの出口はあっちなのに、観客席があるこっちを向いて走ったりしている。そんなこんなが微笑ましい。

すっかりピクニック気分でフィッシュ&チップスをビールで流し込んでいたら、あっという間に午後の2時になった。前日は35度にまで気温が上昇したが、一転、この日は22〜23度で過ごしやすい。まさに観戦日より。

「BMWコンパクトの速さに目が慣れているから、F1がカッ飛んできたら余計速さの違いに驚くだろうなぁ」なんて思いつつ、ビール片手にのんびり構えていたら、カーン、カーン、カーンというエグゾーストノートが近づいてきて、目の前を矢のようにF1マシンすっ飛んで行った。BMWコンパクトがお尻をずるずるスライドさせていたコーナーを、何事もなくへばりつくようにして通過し、去っていく。

次元が違う。何度もこの目で見ているのだけれど、「F1はスゲー」と感心せざるを得ない。ちょっと目が慣れてくると、チームによる速さの違いや、ドライバーによるライン取りや操作のクセなどがわかってもっと面白い。フェラーリはアウト側のタイヤをダートに落として姿勢を乱しているにもかかわらず、強引にステアリングを切って態勢を整え、アクセルをグングン踏んで走り去っていく。

ルノーは一糸まとわぬ、でなくて、一糸乱れぬきれいな姿勢でコーナーを通過していく。エグゾーストノートが一段低いのは、他のマシンよりも一段低いギヤを使っているからか。ガンガン走り抜けるフェラーリとヒタヒタと走り抜けるルノーは、どちらも他のチームのマシンに比べて明らかに速い。

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少なくともシーズン序盤はフェラーリとルノーを軸にした戦いになる、と見当をつけたが、レースは予想通りの展開になった。フェラーリが速すぎたけれども。

フジテレビのF1解説で現場を訪れていた元F1ドライバーの片山右京さんが言った。「タイヤが4個あってハンドルが1個ついていたら、どんな乗り物でも飛ばした時点でスポーツドライビングなんだ」と。これは乗り手の立場から出たコメントだが、見る側にしても同じである。タイヤが4個ついた乗り物がビュンビュン飛ばす様子を見るのは、何物にも代え難く面白い。ましてや最高峰に位置するF1ならなおさら。ロケットが空中戦をしているような、我々の理解の範疇を著しく超えた要素があるにしても。

オーストラリア・グランプリのオフィシャルスポンサーになっているフォスターと、ビクトリアン・ビター(通称ビービー)、クラウン・ラガーなど、ご当地ビールを交互に飲み、チャイニーズ・レストランではしっかり青島(チンタオ)を喉に通して、例年どおりのグランプリ・ウィークを過ごした。ついでだから、オーストラリアン・ワインも飲んだし、紹興酒も飲んだことを白状しておく。
(つづく)

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