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【レースな世界紀行2004】その4の1 [レースな世界紀行 2004]

ようやくシーズンが始まります。あとで出てくるので参考までにお知らせしておくと、1オーストラリアドルの交換レートは現在、80円ほどです。

その4の1
F1開幕戦オーストラリアGP
オーストラリア・メルボルン

メルボルン行きの直行便ができて、F1取材がずいぶん楽になった。カンタス航空QF180便は成田を夜の8時15分に出ると、メルボルンには翌朝の8時半に着く。向こうは日本より2時間先に物事が進行しているから、フライトは10時間である。何年か前までは直行便がなく、早朝のシドニーで乗り継ぎの時間をだらだらと過ごし、だらだらとメルボルンにたどり着いて、だらだらとその日一日を過ごしていた。

ので、直行便は楽である。QF180便の機材はボーイング747、いわゆるジャンボではなくて、767-300だった。だから、座席も3席/4席/3席でなくて、2席/3席/2席と並んでいる(言わずもがなでエコノミークラスである)。

僕が座った42のB席は通路側だった。はてさて隣人はどんな人なのであろうか、というのが飛行機に乗る際の期待でもあり不安でもあるのだが、もっとも僕を喜ばせてくれるのは隣の席が埋まらないことである。横一列の座席を独占できれば、快適なことこのうえない。

だが、そんな幸運は滅多に訪れない。であれば、10時間のフライトを快適にすごせるような、物理的にも精神的にも益があっても害のない隣人を望みたい。

はてさて、メルボルン行きの隣人は希望に叶った人物だった。おそらくはオーストラリアに帰ると思われる、シニアな御婦人。手に持っていたコートを頭上のコンパートメントに入れてあげたことで、このとき僕と御婦人との間に友好なムードが生まれた。そのご婦人は着陸寸前に「今、何時かしら?」と声を掛けてきた。
「オーストラリアに帰るんですか?」との返答をきっかけに、会話が生まれる。
「そうよ、メルボルンに帰るの。日本までクルーズしてたからね」
「そうですか。え、クルーズ?」
「そう。クイーン・エリザベスでね。シドニーに寄って、ケアンズに行って、それからどこでしたっけ。パプア・ニューギニアのどこかに寄って、グアムに行って、横浜に着いたの。13日間の旅だったわ」
「豪華ですね」
「でもね、クイーン・エリザベスはもう古くてだめね。今度新しい客船ができたんだけど、今度はそっちに乗りたい」
「日本は楽しめましたか」
「それが全然時間がなくて。横浜で1泊だけしたんだけど、雪が降ったのには驚いたわ。日本人てすごいのね。6時にバスが出ると言ったら、本当に6時にバスが出るんだもの。今度は桜の咲く季節に行きたいわ。桜は4月でいいのよね」

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フォード・ファルコンというオーストラリアにしか存在しないクルマをレンタカー屋さんから引っ張り出して、20kmばかり離れたメルボルン市内のホテルに到着したのが午前10時半頃。常宿にしているホテルはいわゆるアパートメントホテルというヤツで、部屋はベッドルームとリビングルームに分かれ、キッチンがついている。滞在中、ここで料理を自作することなどまずないし、ソファに腰を降ろしてポテトチップをかじりながらテレビをぼんやり見るといったこともまずないのだが、キッチンとリビングがついているだけで心が豊かになる。だから、僕はこのホテルが好きだ。おかげでメルボルン滞在は快適である。

いつもと違って快適でなかったのは、日本円の対豪ドルレートがすこぶる悪かったことによる。何もかもが高い。空港で1万5000円を豪ドルに両替したら、戻ってきたのが150.15豪ドルである。すなわち、1豪ドル=100円。つまり、600ml入りのミネラルウォーターをセブンイレブンで買えば、2.1豪ドルなので210円相当。暑いからとアイスクリームでも買おうものなら2.8豪ドルすなわち280円なので、冷凍庫に伸びた手が思わず止まった。

昼はホテルから歩いて100歩ほどの日本料理店で本日の定食13豪ドル也を腹に収め、夜は30歩離れたチャイニーズ・レストランに行き、同じホテルに泊まっている同業者6名とテーブルを囲んで酢豚やらチャーハンやらを食べた。ホテルに戻ってベッドに横になり、内田百閒の『阿房列車』を開いた。開いたら途端に眠くなった。

メルボルンは国産車の宝庫である。しかも、もはや記憶の片隅にしか残っていないような懐かしいクルマをしばしば見かける。例えば、510型ブルーバードであり、FRのファミリアであったりする。マニアが後生大事に乗っているという雰囲気ではなくて、気がついたら古くなっていたという風情がまたいい。

交差点で信号待ちをしている際などに、目の前をそうした“いい風情”のクルマが横切ると、思わず気持ちがなごむ。スカイラインなどは歴代がそろう。僕はR30型とR33、R34型のスカイラインとしか遭遇しなかったが、「S54Bを見た」という証言を得ることができた。

クラシックと呼ぶには風格に欠け、最新と呼ぶにはちょっと時代遅れな部類に入る、S14シルビアやスープラ、インプレッサなども見かける。こうした国産車はチューンアップやドレスアップを施しているものが多い。メッキしたアルミホイールに車高短、ぶっといマフラーにスモークフィルムという組み合わせで、「SUKEBE」という粋なナンバープレートをつけたクルマも見かけた。

そういうクルマとの発見を心待ちにしながらサーキットに通うのは気分がいい。しかも、ホテルからサーキットが近い。エキシビジョン通りにある駐車場を出て2本目の角を左に曲がり、500m先を再度左に曲がってしばらく真っ直ぐ。キングス通りに入って川を渡ってすぐ右に曲がる。最初の信号を左に曲がってどんつきまで行くと、そこがオーストラリア・グランプリの舞台となるアルバート・パークである。わずか15分のドライブだ。

どんつきを右に曲がって公園沿いを走り、トラムが頭上を走る角を左に曲がれば、サーキットの入口が見えてくる。運が良ければ、頭上をトラムが横切るシーンに出くわすのだが、あるとき、F1にタイヤを供給するブリヂストンの広告が貼ってある車両に遭遇した。

文句が振るっている。「Formula Won Won, Won, Won and Won」と書いてあるのだが、フォーミュラ・ワンの「One」と「Won」を引っ掛けている。もひとつ、ワン、ワン、ワン、ワンというのは、F1のエンジンが吠える音に引っ掛けている。さらにもうひとつ、「Won」の数が5つあるのは、ブリヂストンがフェラーリとのコンビでもってワールド・チャンピオンに5回輝いたことを示している。甲高いエグゾーストノートとともにサーキットを駆け抜けるF1の躍動感が良く表現されているし、「5回もチャンピオン獲っちゃったもんね」という自慢気な様子がさり気なく出ていて、しゃれている。

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アルバート・パーク周辺では、トラムにブリヂストンが広告を出していたほか、マクラーレンとパートナーを組むタグ・ホイヤーが、ドライバーのキミ・ライコネンを起用した広告ポスターを作り、駅周辺にベタベタ貼り付けたりしていた。テレビをつければ、トヨタのテストドライバーを務めるオーストラリア出身の若手、ライアン・ブリスコが出てきて市販車の宣伝にひと役買っている。新聞を広げれば、大幅に誌面を割いてF1特集。なにもかもがF1一色で、自然と気分が高揚しようというものだ。

そんなこんなを感じながらトボトボとサーキットを歩き回っていたのだが、どうも暑い。プレスルームのモニターで外気温を確認したら35℃もある。暑いわけである。だが、湿度が30%しかないので、体感気温はそれほどでもない。湿度の高いマレーシアだったら、汗だくになってうんざりだったろう。
(つづく)

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